秋も深まる10月、季節にそぐわない『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』というタイトルの小説を読みました。
そこそこ長いタイトルです。
メディアワークス文庫から出版されている、天沢夏月さんの小説です。
『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』↓
天沢夏月さんは、青春小説に定評がある作家さんで、私が天沢夏月さんの小説を読むのは二回目になります。
前に『時をめぐる少女』という小説を読んで、天沢夏月さんの小説にひかれるようになりました。
それから読みたい小説が多々あって、ようやく天沢夏月さんの小説を読む機会に恵まれ、読みことができました。
今回は、『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』の感想を述べていきます。
※本記事の性質上、多少のネタバレを含みます。
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どんな話?
主人公渡成吾は、高校時代に付き合っていた彼女葵透子が心臓の病気で亡くなったことを忘れられないでいる。
行動や表情、そして甘えん坊なところも含め、透子のなにもかもが好きだった成吾は、高校卒業と同時に透子と過ごした思い出も街を飛び出して東京へ行った。
それから4年たち地元に戻ってきた成吾は、思い切って透子の家に行く。
そこで透子の母親と再会し、透子の部屋に足を踏み入れると、以前透子と成吾で行っていた「交換日記」が落ちていた。
その日記に思いをつづった成吾のもとに、亡くなったはずの透子からのメッセージが。
過去の透子とつながったノートでのやりとりを通じて、透子がなくなるという過去を変えようとしていく成吾。
愛と感動に満ちた、青春ストーリーです。
感想※ネタバレ注意
『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』は、最高の青春小説といえるでしょう。
図書室で出会った二人が、たわいもない会話をし、交換日記をし、夏祭りに行き、そして交際を始める。
そして高校2年の夏に付き合い始め、たった40日しか一緒に過ごすことができなかった恋人同士の時間。
ありがちな設定ではありますが、かなり心に深い感動をもたらしてくれました。
その理由はおそらく、その過ぎ去っていった時間を、過去と現在という時間軸を繰り返しながら、ストーリーが徐々に展開していくからだと思います。
ストーリーの始まりは、透子がなくなって4年後の成吾から始まり、そのあとに二人の出会いの場面が描かれます。
このように過去の初々しくも淡い恋の時間と透子をなくした後の成吾の時間が対に描かれることで、透子という存在が成吾にとって非常に大きいということが、かなり伝わってきした。
そのため、かなり感動を掘り下げてくれるのでしょう。
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また、本編で注目すべきなのは、透子が抱える心臓の病気。
この病気を抱えている透子は、みんなが自分のことを女の子ではなく病人として扱うことが嫌で、人とのかかわりを避けるようにしています。
病気のせいでいじめられることは一切なく、逆にまわりの人に気遣ってもらえるが、それは透子を気遣っているのではなく、透子の病気、とりわけ心臓についているペースメーカーを気遣っているということに、透子自身が気づいていました。
そのため、人となるべくかかわらないようにすることで、自我を保っていきます。
なので、交換日記を始めた成吾にも、心臓のペースメーカーのことはなかなか話せず、モヤモヤを抱えたまま成吾と夏祭りに行きました。
そこで成吾にペースメーカーのことを打ち明け、付き合うことにしましたが、付き合ってからの成吾も透子の体、つまりペースメーカーをかばうようにしながら、一緒に時間を過ごしていきます。
確かに、大切な人の体を守るというのはその人自身を守ることになるのかもしれませんが、その守っている「もの」はその人なのか、それとも抱えている病気なのかは、突き詰めてみないとわかりませんね。
自分としては大切な人のことを守っていても、その大切な人からしたら、ただ病気を過剰に心配し、病気のことを守っているようにとらわれるかもしれません。
このような考え方もあるのだなと、新しい視点を教えられました。
そして、透子が亡くなった後も、透子のことをずっと忘れられない成吾が印象的でした。
透子のことを忘れるために東京の大学に進学し、記憶から消そうとすればするほど、逆に透子のことを思い出してしまう成吾。
実際に大切な人を亡くした際に、簡単に忘れることができるでしょうか。
そんなに簡単なことではないでしょう。
今作の中では、成吾は4年後に透子が残した手紙を読むことで、心につかえていたわだかまり的なものが消えますが、やはり透子のことを忘れることはできません。
というより、忘れてはなりません。
でも、いつまでもくよくよしていてもいけない。
生きている人は前をみて、明日に進んでいかなければならないんだ。
ある意味あたり前なことですが、このことを本作を通じて再確認させられました。
まとめ
天沢夏月さんの『八月の終わりは、きっと世界の終わりにいている。』は、王道の青春小説です。
40日という短すぎる恋の時間を、過去と現在の時間軸を対にみていくことで、ストーリーが展開されます。
ある意味、大切な人との時間の過ごし方、そして大切な人をどのように「見る」のかということを、改めて教えてくれる作品です。
「感動もの」の小説が好きな人には、かなりおすすめな作品になっています。
私自身も、今後も天沢夏月さんの作品を読んでいきたいです。
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