山田悠介『貴族と奴隷』感想※ネタバレ注意(素人小説書評)

久しぶりに小説の感想記事を書きます。

今回読んだのは、山田悠介さんの『貴族と奴隷』です。

『貴族と奴隷』↓

2018年4月10日に初版発行されたばかりの、山田悠介さんの最新作。

今回の『貴族と奴隷』は、山田悠介さんの作品の中でも特に突出した、人間の心理的な怖さが描かれた作品です。

山田悠介さんの特にホラー作品が好きな私からすると、待ちに待っていたホラー作品(ホラーというほどではないですが)だったので、即刻購入。

話自体はそこまで長くありませんでしたが、読みごたえがあって、かなり面白かったです。

では、山田悠介さんの『貴族と奴隷』の感想を述べていきます。

※記事の性質上、多少のネタバレを含みます。

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どんな話?

生まれたときから盲目の黒澤伸也は、親友の山崎直也と買い物に向かっている途中、謎の男たちに誘拐されてしまいます。

誘拐された先で目を覚ますと、黒い服に身を包まれており、足には足枷がつけられていました。

伸也や直人、そして二人の友達の藤木ともえなど、30人の中学生たちが集められており、みんな一様に困惑した様子です。

そして現れた誘拐犯の男から、貴族と奴隷に分かれてシミュレーションを行うことが告げられます。

それは、誘拐された30人の中学生のうち5人が貴族に選ばれ、残りの25人が貴族の奴隷となり働かされるというもの。

この現実離れした過酷な状況の中で、伸也や直人、ともえはどのような運命をたどるのでしょうか。

不条理な現実が突きつけられる、人間の本質が見いだされるホラー小説です。

感想※ネタバレ注意

今回の『貴族と奴隷』を読みながら思ったことは、似たような話をどこかで聞いたことがあるなということ。

それは、アメリカ合衆国のスタンフォード大学で、「看守と囚人に分かれてシミュレーションを行う」という実験です。

看守役と囚人役の人をそれぞれ公募で募り、集まった人たちを看守と囚人に分けて実験が行われました。

結論から言うと、この実験は主催者側が危険と判断したため、期間を満了することなく強制的に終了。

なぜかというと、看守役の人たちが囚人役の人たちに虐待を始めたから。

つまり、看守という地位を与えられた参加者たちは、自分がまるで本当の看守になったように、囚人たちを扱い始めたのです。

一方、囚人役の人たちも、自分たちは囚人だという意識のためか、看守役に対してあまり口答えができなかった模様。

今回読んだ『貴族と奴隷』は、まさにこの監獄実験を彷彿させる話でした。

 
本書では、貴族は奴隷を使って畑作業を行わせ、作物を収穫することが貴族の目標とされています。

そのために、上手く奴隷を使って、作物を収穫させなければなりません。

また、食事に関しても貴族が奴隷に分け与えるため、例えば奴隷の中で気に入らないことをした人物がいたら、その人物にだけ食事を与えないということも可能です。

ただし、このシミュレーションに参加させられているのは、30人のただの中学生。

大人になりつつある彼らによって行われるこのシミュレーションは、奇しくもただならぬ方向へと進んで行ってしまいます。

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最初は、貴族側の人の中にも、奴隷たちに優しく接している人がいました。

ですが、主人公の伸也たちの所属する奴隷役は、最初から伸也たちのことを完全に奴隷だと蔑み、奴隷だからどのように使ってもいいと発言しています。

そして行動はエスカレートしていき、金属の棒で暴力をふるうのは当たり前で、貴族に与えられた銃で奴隷を脅し始めます。

要するに、貴族は人権のない人間である奴隷を、ただの「モノ」として扱ってもいいという、南北戦争前のアメリカ合衆国の思想を、貴族側がもっているということです。

 
しかも本書では、学校の中であまり目立たない人、ないしはいじめられている人が、貴族役に選ばれています。

言い換えれば、普段の学校生活ではスクールカーストの下のほうに追いやられている人たちが、このシミュレーションでは絶対的な権力をもっているということ。

日常では得られないような権力を有したとき、しかもそれが日常とは逸脱した異常な状況の中だと、人間どのような行動をとるかはなんとなく想像がつきますよね。

権力を行使し、絶対に逆らえない人たちを相手に権力を振りかざします。

そして奴隷役の人たちは、その権力とどのように向き合うのか、あるいは対抗するのか考えなければなりません。

『貴族と奴隷』では、これらが網羅されており、かつ山田悠介おなじみの不条理な結末が待ち受けています。

そして、この不条理な状況の中でも人にやさしく接しようとする全盲の少年伸也が、どのようになってしまうのかという点も見ものです。

 
『貴族と奴隷』は、山田悠介お得意の突然の不条理で人間の本性を描き出す、渾身のホラー小説になっています。

「人間の恐さ」が描かれた小説が読みたいという人は、ぜひとも読んでみてください。

まとめ

2018年4月に発売されたばかりの、山田悠介さんの最新刊『貴族と奴隷』。

貴族役と奴隷役が生み出す人間の本性を描いた、暗く堕ちていくようなホラー小説です。

山田悠介さんはホラー小説に定評がある方なので、じひともこの『貴族と奴隷』を読んでみてください。

また、山田悠介さんは面白い小説しか書いていないので、ぜひともほかの作品も一読してみてくださいね。

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