島田壮司『透明人間の納屋』感想※ネタバレ注意(素人小説書評)

2017年に入ってからそれなりの小説を読んできましたが、その中でも特別不思議な話だなと思ったのが、今回紹介する『透明人間の納屋』

『透明人間の納屋』↓

島田壮司さんという、1981年にデビューされたベテラン小説家の方が書いた話です。

講談社文庫化から出版されています。

この小説と出会ったのは、本屋さんで「夏ミス2017」のコーナーを見ているときでした。

奇怪で人を引き付ける独特な表紙と裏のあらすじに惹かれ、すぐさま購入。

読んでみると、最近読んできた小説とは違ったテイストで、一番に感じたのは「不思議な話だったな」という感情です。

そこで今回は、島田壮司さんの『透明人間の納屋』について、感想を述べていきます。

※本記事の性質上、多少のネタバレを含みます。

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どんな話?

『透明人間の納屋』は、ヨウちゃんという少年と真鍋さんという男性の関係を中心に描かれる話です。

父親も友人もいない孤独な少年ヨウちゃんは、隣人である真鍋さんと過ごす時間が楽しく、学校から帰ると、いつも真鍋さんと過ごしていました。

真鍋さんもまた、ヨウちゃんと過ごす時間を楽しんでおり、博識な真鍋さんはヨウちゃんにさまざまなことを教えてあげます。

その過程で、世界には透明人間がいること、そして透明人間になる薬が実在するということを語る。

その後、外国へ渡った真鍋さんとは音信不通になるが、26年の歳月を経て、真鍋さんから手紙が届きます。

『透明人間の納屋』はこのような話です。

感想※ネタバレ注意

『透明人間の納屋』を読んで一番に感じたのは、冒頭でも述べましたが、「不思議」という感情です。

この不思議というのは、おそらく島田壮司さん文章表現に所以するのだと思います。

作者の島田壮司さんは1948年生まれですが、これといって昔の文章表現を使っているわけではありませんが、最近活躍されている若い作家さんとは、どことなく異なった文章表現がされていると感じました。

また、舞台も昭和52年の夏という、私が生まれてすらないまったく知らない時代なため、ストーリーに「不思議さ」が増されたのでしょう。

 
そして、ストーリー自体も、最近のミステリーのように複雑な伏線が張られているということはありませんが、みるみる引き込まれてしまいました。

このストーリーで重要になってくるのは、題名にもあるように「透明人間」です。

ストーリー展開上で、とあるホテルの一室で女性が消えるという事件が起こりますが、ヨウちゃんはその女性を連れ去った犯人は真鍋さんではないかと、疑念を抱きます。

その際、真鍋さんが透明人間になる薬を飲み、透明人間になって犯行に至ったと考察をしました。

この透明人間という常識外れな存在は、『透明人間の納屋』のストーリーをまるごと上手く納めてしまうのです。

 
ネタバレになりますが結論から言うと、この話の中で透明人間は実在しました。

とはいえ、本当の透明人間がいるわけではなく、自分はどういう人間で、自分は何者なのかという、居場所がない人たちが透明人間だったのです。

実は、真鍋さんは北朝鮮から来た工作員でしたが、日本でヨウちゃんとヨウちゃんのお母さんに出会ってから、工作員としての使命とヨウちゃんたちを大切にしたいという最大の葛藤の間で、自分の存在意義をなくしていってしまいます。

実際、私たちも生きていく中でさまざまな地位を付与されますが、それを上手くこなしていくのは、非常に難しいですよね。

非常に簡単な例を挙げるならば、仕事と家庭の両立です。

しっかり働いて家族のために稼ぎたいけれど、その一方で家族のために、家族と過ごす時間を大切にしたいという葛藤が生じる方も多いでしょう。

真鍋さんもまったくこの通りで、結局はどちらも果たすことができず、祖国の北朝鮮に戻っていくことになります。

 
結局、『透明人間の納屋』では、ほとんどの登場人物に幸せなことは起こりません。

ですが、人からもらった心の支えを持っている人間は、それを信念にし、強く生きていくことができるということも、この話からは感じられました。

ヨウちゃんは真鍋さんから言われた一言を大切にし、一方で真鍋さんもヨウちゃんと過ごした時間を糧にし、残り少ない寿命を北朝鮮の収容所の中で暮らしています。

やはり人間誰しも、心の支えとなるものが必要ですね。

それは人によっては形あるものかもしれませんが、この話の登場人物たちのように、目には見えないものであるということも、もちろんあります。

読んだ感じ非常に不思議な話だと感じましたが、一方で人間の芯の強さも垣間見れた作品でした。

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まとめ

島田壮司さんの『透明人間の納屋』は、とても不思議な話という印象が強かったです。

複雑な伏線が張られているわけではありませんが、最終的にはすべての事件がつながり、話がうまくまとまっていました。

作中、本当に幸せを勝ち取れる人はほとんど登場しませんでしたが、目に見えない大切なものを抱きながら生きる人間の強さを、しっかりと感じることができる作品です。

結局何が言いたいかというと、ぜひともみなさんにも読んでいただきたいということ。

ミステリーとヒューマンドラマの話が読みたいという人に、まさにぴったりの作品です。

私自身、映画や小説の感想を述べることにまだ慣れていなく、感想記事を書くときは、いつもつたない表現になってしまっています。

今後、もっと読みやすく、わかりやすく感想を述べることができるように、私自身も精進していきます。

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