都内では4年ぶりの積雪を観測するなど、2018年に入って寒い日が続いています。
そんな寒い日でも、読書はやめられませんね。
今回は、湊かなえさんの『物語のおわり』を読みました。
『物語のおわり』↓
私はかなり前から湊かなえさんの作品が好きだったので、新たに湊かなえさんの作品が文庫化されたと聞き、急いで購入。
ということで、湊かなえさんの『物語のおわり』の感想を述べていきます。
※記事の性質上、ネタバレを含みます。
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どんな話?
癌になってしまった妊婦、夢をあきらめた男性、娘の進路に悩む父親など、悩みを抱えた人たちが訪れたのは北の大地北海道。
さまざまな思いを抱えて北海道に訪れた人々は、北海道を旅する中で、『空の彼方』というコピー用紙に印刷された小説を手にします。
『空の彼方』は物語が完結しておらず、それを読んだ旅人たちは、おのおの物語のおわりを思いつき自分の悩みを解消し、そして出会った人にその小説を渡す。
このように『空の彼方』は人から人へと渡っていき、悩める人々に希望をもたらします。
読者にちょっとした勇気をくれる、新しいスタイルの物語です。
感想※ネタバレ注意
毎回湊かなえさんの作品を読んで思うのですが、私からすると湊かなえさんは非常に文章がきれいで美しい作家さんです。
つまり、本当の意味で「文章がうまい」ということ。
予想外の結末をもたらしてくれる発想力のある作家さん、設定が斬新で前衛的な作品を作る作家さんは多くいますが、文章のうまさだけみると、湊かなえさんはトップレベルだと思います。
その文章の美しさが際立っていると感じたのが、今回読んだ『物語のおわり』です。
『物語のおわり』は、湊かなえさんの作品によくある、何人かの登場人物の視点から一つの物語を紡ぎだしていくスタイル。
そして今作の登場人物たちは、人生の岐路に立たされており、その解決、あるいは選択をするうえで重要な「何か」を得るために、はるばる北の大地を訪れています。
例えば、癌を患ってしまった妊婦の智子さんは、子供を産んだ後に癌治療をするのか、また確実に生きるために子供を堕ろすのかに悩みます。
正確には、「子供を産む」というのは決めているのですが、生んでしまった後に子供を残して自分が亡くなるのを恐れているのです。
そこで『空の彼方』と出会い、子供を産んで自分も生きるという決心をします。
このような智子さんの心情が湊かなえさんの美しい文章で表現されているので、まるで同じような状況の人が自分の周りにいるように錯覚してしまい、より一層登場人物の気持ちに引き込まれていきます。
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そして、『物語のおわり』の注目点は、物語の結末を読者にゆだねること。
『物語のおわり』は、一つ目の話が作中で登場する『空の彼方』という小説の話で、二つ目の話からが北海道を旅する人たちの話になります。
『空の彼方』の内容を簡単に説明すると、小説を書くのが好きな女の子が、小説家になれるチャンスを与えられますが、そのときには恋人との結婚が決まっており、時すでに遅し。
それでも小説家の夢に踏ん切りがつかなかった女の子は、家族や恋人に黙って駅に向かいますが、そこには恋人が待ち構えています。
ここで物語は終わっており、続きは読者に任せるとのことです。
これは、小説でありそうでないパターンではないでしょうか。
小説というのは、作者が思い描く世界を文章に表したもので、もちろん結末は用意されています。
ですが、『空の彼方』はここで終わっており、旅人たちに思い思いの結末を描かせるのです。
もちろん、私たち読者も『空の彼方』の結末をおのおの考えることができます。
なので、『空の彼方』は読む人がいればいるほど、その分だけ結末が出来上がる小説ということです。
私も『空の彼方』の結末を考えました。
私が考えたのは、女の子は恋人の制止を振り切って電車に乗り、小説家になるために努力をします。
ですが夢かなわず、10年の時を経て元の田舎町に戻ることに。
そんな女の子を、10年もの間恋人は待っており、二人はようやく結婚する。
このような結末を考えました。
このように、一つ目の話の結末を考えながら、登場人物たちの心情をみていくことができるというのも、『物語のおわり』の面白いところだと思います。
ちなみに、『空の彼方』の結末は、ちゃんと用意されているので安心して読んでください。
やっぱり作家たるもの、物語はきちんと完結させるのでしょう。
『物語のおわり』は、悩める人々が一つの小説によって変えられていく、読者の心を動かす物語です。
実際に何か迷っていたり、困ったことがある、悩んでいることがあるという人は、ぜひ『物語のおわり』を読んでみてください。
まとめ
『物語のおわり』は、読者に小さな勇気を与えてくれる美しい物語です。
人は生きていく中で何かに迷い、そして悩みます。
その際に助けてくれるのは大切な誰かであったり、そして今作のように一つの物語かもしれません。
ぜひとも、『物語のおわり』を読んでみてください。
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記事後半で、
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ちなみに、『空の彼方』の結末は、ちゃんとよ言うされているので安心して読んでください。
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という記載がありましたが「よ言う」じゃなくて「用意」なのかなと思って不躾で大変恐縮ですがコメント書かせて頂きました。
他のサイトより、まとめがお上手だなと思い、ここの部分だけが残念だなと感じたので…
すいません。
コメント、およびご指摘ありがとうございます。
お褒めの言葉までいただけて、大変うれしく思います。
ご指摘いただいた箇所は、直させていただきました。
おかげさまで、記事がより良いものになりました。
ありがとうございました。